イノベーションは「辺境」から起きる——家業が変わるとき、何が起きているのか
地方の企業や家業の現場に足を運ぶと、 経営者はよく「うちは特別なことはしていない」と口にします。 しかし、じっくり話を聞くと、 その「特別ではない」日々の中にこそ、次の変化の芽が潜んでいます。 私はそれを「辺境の知」と呼んでいます。
イノベーションは、都会の中心や大企業の研究所だけで生まれるものではありません。 むしろ、資源が限られ、外からの支援が届きにくい地方・中小の現場だからこそ、 人の知恵と工夫が凝縮され、 “次の時代のあり方”が見え始めるのです。
■ 「家業」は過去の延長ではなく、未来の実験場 日本のファミリービジネスは、単なる経営体ではなく「文化の継承体」です。 技術、価値観、そして地域との関係性。 それらを次世代にどう引き渡すかが、 いま全国の中小企業が直面している最重要課題です。 ところが、多くの現場で「承継=事業引き継ぎ」と誤解されています。 本当の承継とは、“意思決定の型”をどう伝えるかにあります。 父親がどう考え、どう選び、どう責任を取ってきたのか。 そのプロセスを学び取る仕組みがなければ、 いくら知識や技術を引き継いでも、経営は安定しません。 私たちの仕事は、その「見えない知」を可視化すること。 つまり、経営の“判断構造”を整理し、 後継者と幹部が同じ言語で議論できる状態をつくることなのです。
■ 「吸収能力」が企業の未来を決める 経営学の世界では、absorptive capacity(吸収能力)という概念があります。 簡単に言えば、「外部の知を取り込み、自社で再構築し、成果につなげる力」。 企業が変わるとき、 新しい技術を導入したり、外部人材を採用したりすることがありますが、 それを“消化できる”組織体質がなければ、改革は形だけで終わります。 地方企業が持つ強みは、人の距離が近いことです。 経営者と社員の顔が見える距離で、 理念・判断・現場行動が連動すれば、学習の速度は一気に上がります。 これを仕組み化できた会社は、 都会の企業よりもむしろ強い吸収能力を持つようになります。
■ 変化を生むのは「決断」ではなく「構造」 承継期にある企業でよく起こる誤解があります。 「後継者が決断すれば会社は動く」というものです。 現実は逆です。 後継者が迷うのは、決断の構造が共有されていないから。 つまり、「何を基準に」「どんな選択肢を」「どの順で判断するか」というルールが不透明なのです。 私たちはこの構造を見える化し、 経営者・後継者・幹部が同じフレームで意思決定できるよう支援しています。 それは「心理的支援」ではなく、知の設計支援です。 結果、対話が増え、判断のスピードが上がり、 社内の信頼が回復していきます。 この状態こそが、“内発的イノベーション”が生まれる基盤になります。
■ イノベーションは、外部からではなく「内部の再発見」から起きる 「新しいことを始めたい」と相談を受けたとき、 私たちはまず“新しさ”ではなく“原点”を確認します。 なぜこの会社が存在してきたのか。 どんな理念が代々受け継がれてきたのか。 その過程で多くの経営者が、 「実はうちの強みは“技術”ではなく、“考え方”だった」と気づきます。 ここに、イノベーションの種があります。 つまり、 イノベーションとは「古いものを壊すこと」ではなく、「本来の価値を再構築すること」なのです。 地方の小さな工場が、世界中の企業に技術供与をしている例もあります。 それは、中心ではなく辺境から起きる革新です。
■ 私たちが大切にしていること 現場に寄り添う密着力 — 経営会議にも現場にも入り、意思決定を支援 理論を実務に翻訳する思考力 — 学術的知見を、実行できる言葉に直す 行動をデザインする提案力 — 計画と実践の距離を短くする仕組みを設計 私たちは、単なる助言者ではありません。 経営の伴走者として、企業と共に走り、 「考える時間」と「動く時間」を両立させます。
■ 最後に:辺境から、日本の未来をつくる 私がこの仕事を続けている理由は、 地方の企業がまだまだ“変わる力”を持っていると信じているからです。 限られた資源、厳しい環境、しかし人のつながりが濃い地域だからこそ、 イノベーションの芽が生まれる。 それを言葉と仕組みで支えるのが、私たちの役割です。 イノベーションは辺境から起きる。 この言葉を胸に、これからも中小企業・ファミリービジネスの未来を、 現場からつくり続けます。
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